受講ノート:瀬田RCコーチセミナー

[Ozawa Rowing Top Page] [Seminar Library INDEX] edit:20010512 20231203


 朝日レガッタ開催時に行われたNPO瀬田RC主催のコーチセミナーに参加.本ページはその受講記録である.(できるだけ,正確を期すようには留意したが)記述内容が整理の過程で,主催者および講師の表現,意図とは異なる可能性もある.セミナーでは3氏の講話のあと,まとめて質疑応答があったが,その内容は各氏の話の中に吸収させた.
名称 :朝日レガッタコーチセミナー2001
主催 :瀬田漕艇倶楽部
日時 :2001.5.3 17:30-19:30
場所 :瀬田RC ボートハウス2F
参加費:¥2,000/日

第1日目:「大学ボート部の活性化」

司会:岸本博人(瀬田漕艇倶楽部普及担当,岡山大学トレーニング担当コーチ)
 最近,大学ボート部は部員数の減少や”元気がない”ような傾向が見うけられるが,ここでは活動に成果を挙げている3大学の事例を話していただき,また質疑応答を重ねて,活性化に役立ててほしい.


1 「選手主体の新人勧誘」 阿武(あんの)基之 岡山大学男子部コーチ (岡山大学工学部OB)

1.1 新人勧誘の重要性と最近の新入生
 新人勧誘の重要性はあらためていうまでもない.選手の人材確保や伝統の持続などのために,毎年新人を確保するために,新人の勧誘は重要である.事例として,女子部は従来,部員数も多く活動が盛んであったが,一時期部員が減り危機的状況にも陥った.部員を確保することがいかに重要であるかを痛感した.
 また最近の新入生の特徴を見ると,「しんどそうで,怖い」というイメージで体育会離れが進むが,一方で運動自体は好きな側面もある.他に,自分から行動を起こさない,軽く付き合いたい,などの傾向がみられる.競技スポーツを徹底的にやってみるとか,集団スポーツのなかでお互い深い部分で付き合うという方向からは離れる傾向にある.

1.2 新人勧誘活動の概要
 新人の勧誘活動は,2年生を中心に計画し準備を進めていく.1~3月は準備期間で,看板,ビラ,ポスター作りなどをする.これら小道具にもかなり手をかけて,楽しいイメージをアピールするように工夫する.4月は宣伝活動で,まずとにかく試乗会にきてもらう約束をとりつけることに全力を挙げる.すぐに入部させようと無理強いしない.試乗会では,新入生を一つの場所に集めることで,入りやすい雰囲気がつくられる.さらに続いて「新勧レガッタ」を行い,競漕の面白さを味わってもらう.ボート競技にはともすれば,暗い,きついといったネガティブなイメージも抱かれやすいが,がんばってポジティブなイメージでカバーしていく.
 このようにして,例えば昨年度は,3回の試乗会に計200人近い新入生を集め,25人の入部をとりつけ,そのうち半数以上(13名)が1年後も継続している.そのうち経験者はわずかで,ほとんどが入部後にモチベーションを成長させている.年ごとに新入生の雰囲気やパターンは異なるが,反省会を開き,来年の改良につなげている.ノウハウの蓄積が,より効果的な勧誘につながると期待している.

1.3 練習内容など
 新入生の練習は,5月の連休の後から,水・土曜日にKFに乗艇,5月末から朝練が始まる.瀬田杯への出漕が最初の目標となる.学校の前・後期試験日程の変更などの問題があるが,試験があっても大体ギリギリまで練習している.新人は秋の加古川Rなどが目標となる.練習のメニュー,負荷はクルーごとに異なり,2年生以上も学年では決めていない.メニューは,選手が主体的に作る.技術についても,コーチは提示はするが,それをどう取り入れるかはクルー次第である.新しい意見は尊重される雰囲気にある.


2「クラブ運営の具体例」 榊原章浩 東北大前監督,名古屋大コーチ(1976東北大医学部卒,1999年から名古屋大勤務)
(東北大漕艇部の活動・クラブ運営の紹介)

2.1 歴史に支えられて
 東北大漕艇部には旧制二高以来の伝統があるが,単に歴史があるというだけでなく,名取艇庫の創立者の胸像,応援歌,1934年の事故以来の命日(12/28)の参拝,戦争中も練習を続けていた話,より良い水域を求めて艇を運んで各地を漕いでまわった話などが,自然に伝統や上を目指すスピリットが継承されることに繋がっている.また,堀内監督の引退の後,若いコーチと選手でやっていかなければならない状況になり,それ以降のひとつの流れとなった.

2.2 艇速を支えるもの.
(1) 大学院生を中心とした層の厚いコーチ陣
 コーチは15人の大所帯(99年時点)であるが,お互いに切磋琢磨し,各自がオリジナリティを出そうとして積極的にやっていく雰囲気があり,またその雰囲気が伝統となっている.コーチがこれほど多いと,時には意見の食い違いなどのマイナス面も出てくることがあるが,気をつけるようにしている.コーチ会議などをすることもあるが,意見の相違は(話し合って解決するというよりは),上のレベルの者が方向をまとめるということがうまくいくようだ.コーチには選手時代のトップよりもむしろナンバー2が良いコーチとなっているケースが多い.トップは,相応の戦績を挙げ満足してしまう傾向があるのに対し,ナンバー2は某かの悔しさや遣り残したことを,後輩の指導を通して夢を託す形で昇華させるということだろう.
 また,OBのコーチへの認識も重要だ.一般には,古いOBが若いコーチのやり方に対していろいろ干渉する例もあるだろうが,東北大の場合は,「忙しい中,コーチをしていただいている」という敬意と,現場の考え方や方法を尊重する雰囲気がある.

(2) 選手の高いモチベーション
 東北大は部員数も多く,部内の競争があり,それがまず良い雰囲気をつくっている.対抗の座をかける競争から,インカレ優勝,日本代表,世界のファイナリストへと,連続的・段階的に目標はより上に置き,上昇志向がある.また,76年以来,海外遠征を継続的に実施しているが,これもモチベーション高揚に大きな役割を果たしている.遠征前にはなんだか頼りないクルーも,帰ってくると,考え方ひとつとっても一皮脱皮して帰ってくるようだ.
 なお,新入部員に高校時代の経験者はほとんど少なく,高いモチベーションは,入部後に培われているといえる.

2.3 OB活動について
 東北大のOBの中には,OBになってもボートを楽しむ「貞山クラブ」で活動しているものも多く,ライフスポーツとして楽しんでいる.また,「ZRC(善福寺川RC)」の活動もひとつの憧れ的存在で,注目を集めている.また,実業団,クラブチームでがんばっているOBも多く,そういったOBの活躍が,現役にも好影響を与えている.

2.4 OB会(図南会)の活動
 図南会(OB会)は,OBの親睦,会報発行のほか,現役への定期的な財政支援,機動性に富む臨時募金などの活動で現役を支えている.また,OBには,堀内浩太郎氏をはじめとして深くボートに関わり貢献されているボートファミリーがあり,コーチ・選手もよくそのご家庭に訪問し,現役に好影響を与えている

2.5 事務局とスタッフ会議
 省略.

2.6 医学部ボート部,歯学部ボート部との協力関係
 医学部・歯学部は6年制で,他の学部より長く現役として漕ぐチャンスがあり,そこから本学のクルーに入りがんばるメンバーもあって,チームの強化や選手活動の長期化など,良い刺激となっている

2.7 練習
 春の新入生の練習は,新人コーチの指導のもとに週末のKF程度.1×を早くとはいっていない.新人戦までを新人コーチが担当し,それ以降(2年生以降)は,学年にはこだわらず,ジュニアクルー,シニアクルーのグループにそれぞれまとまって各コーチが指導する.


3 「4年で結果を出すトレーニング法」 林 康裕 鹿児島大コーチ 1980年水産学部入学,現在鹿児島市役所勤務

3.1 鹿児島大ボート部の概要
 現在,部員は約15名で8+を組んでいる.大学から水域までは約80km.長期休暇以外は,週末(土日)のみの乗艇であり,あとは陸トレが中心となる.3年半の選手生活の中で,1年生の夏までは,ほとんどボートは漕がせないで,夏まではサッカー,バスケなど.夏休みは休み,9月からボートを漕ぎ始める.KFから4+,8+へとステップアップしていくが,早いうちに上級生のクルーと一緒に漕がせるようにしている.2~3年生のメニューは,部員が少ないので分けてやることはせず,各選手にあった負荷を与えて個別の負荷を調整している

3.2 陸上トレーニング
 トレーニングメニューは,コーチが決めている.決まった定番やシステムというものはなく,毎年そのクルーに合わせて工夫している.陸トレでは走ることを重視している.ロードワーク2kmからステディで毎日10kmなど.マラソン大会,駅伝,登山などへも参加する.スプリントの強化には,レペティションなどもやっている.ランニングが多いために,従来は外を走りすぎて疲労骨折などがよくあったが,トラックランニングを増やして,故障は減らせることができた.なお,特にシューズには気を配るよう指導している.
 選手の体格が,時代とともに,筋肉質からスマートな体格へと変化し,ウェイトトレーニングでの故障が増えたため,現在はウェイトは減らし,替わって「自重」を使ったトレーニングを多くやっている.綱のぼり(最大10回),倒立など.自重のみのスクワットではスピードと動きのコントロールを重視している.エルゴは,10kmや1時間漕など.
 TTなどで短期の目標設定で,少しずつでもタイムが向上することを目指している.少しでも記録が伸びることで,やる気につながる.練習はできるだけ頻繁に見るようにしている.最近はEメールでのやりとりも活用している.抜き打ちで見に行くこともある.

3.3 技術面
 乗艇が少ないために,技術面には課題が残る.最も大きな課題は,バランスが悪いことである.従来,鹿児島大エイトは,(邪道と知りつつ敢えて)バウペアにフォワードで水面をすらせてバランスをとっていた時期もあった.しかし今はそれは採用していない.ビッグブレードに替わり,実際上できないということもある.
 しかし多少バランスが悪くても,とにかく水を強く,長く押すということに最大のポイントを置いている.艇速は泡の空き(=スペーシング)で評価している.

3.4 コーチング
 選手の人数が少ないことを逆に有利に働かせている.コーチは,少ない20数人程度しかいない選手全員のことをよく知っている.新入生でいえば,夏休みが終わり9月の乗艇が始まる頃には,ほぼ一人一人を把握するようにしている.コーチは3人いる.一人は,一橋大OBの安藤さんで,月一度ローイングコーチとして来ていただいている.(乗艇では)3人のうち誰かが見ている体制を取っている.3人の言うことがくい違うということはない.他の大学のやり方はあまり知らないが,知っていたとしても,鹿児島大では適用できないことも少なくなく,できることをやるという方針である.

3.5 漕ぐ時間が少ないことも活かす
 漕ぐことが少ないので,選手は逆に漕ぐことに「飢え」,漕ぐことに貪欲になっている.そのため,漕ぐことが毎回楽しく嬉しい.週末の乗艇練習では,2時間×3回の乗艇などもするが,そこでの上達は明瞭だ.朝と夕方にははっきりした上達が見られる.もっとも次にきた時は,また少し後戻りはしてしまうが…
 まだ弱く,勝ったことがないので,選手は自身でいつも,勝ってみたい,もっと強くなりたいと考えており,モチベーションは高い.また,ある卒業生の言葉;,「3人のコーチはいつもとても楽しそうだ.なぜなんだろうと思って選手を続け,ようやく少しわかったような気がする」と.
 いずれにしても,乗艇にしても陸トレにしても,「気合を入れて」やっていくことだと思う.


EOF