乳酸(にゅうさん) (nyu-san; Lactic acid)

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乳酸は,分子式 C3H6O3,示性式 CH3CH(OH)COOHで,糖分の分解によって生じる有機化合物のひとつである. 運動生理学において,「乳酸」は長く「老廃物,疲労原因物質」と考えられてきた. というのは,1929年にアーチボルド・ヒル(英国,ノーベル賞学者)らが,疲労した筋肉に乳酸を発見し,乳酸の蓄積とそれによるアシドーシス(≒酸性化)が,筋肉の機能を阻害,疲労を起こすと考えたからだ.
しかし2001年頃から,筋肉疲労の原因はアシドーシスではないとわかり始めた.2001年にはニールセンらが,「カリウムイオンを添加すると筋肉が疲労し,そこに乳酸を添加すると回復」する現象を発見,乳酸は疲労原因物質ではないことをつきとめた. 2004年に乳酸がむしろ回復に積極的に作用するとの認識が進んだ.
しかし現在(2015年時点)でも,乳酸=疲労物質の旧説は,ネット上でもなお多くみられる. 栄養・スポーツ関係者でも乳酸=疲労原因物質の知識のままの人も多いといわれている. 今一度「乳酸」について整理しておこう
・運動強度が高いと,筋肉中で糖質の分解によるエネルギー産生過程で「乳酸」ができる.(これは主に,糖質が多く蓄積されている瞬発系筋群(速筋)での機構,と考えると良い).
・生成された乳酸はエネルギー源である,持久系筋群(遅筋)に送られ,有酸素的にエネルギーを生成するために消費される.
・乳酸は,疲労の原因物質ではない.
・血中乳酸濃度やLTは,科学的トレーニングのために有用で,意味を失ったわけではない. ただし乳酸を「老廃物,疲労物質」と考えるのではなく,(受け渡しの,中間的な)エネルギー源物質と考えるべき,ということ.
・乳酸は筋肉だけでなく,脳の重要なエネルギー源でもある.

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