WBGT 暑さ指数

EncycROWpedia OZAWA ROWING [2018-9-7]
WBGTは,「Wet-Bulb Globe Temperature」,湿球黒球温度のことで,最近では「暑さ指数」(環境省)とも称される.

1.歴史
WBGTの歴史は結構古い. 1954(S29)年,米国のYaglouとMinardがWBGTを提案した.熱中症が多発していたサウスカロライナ州の海兵隊新兵訓練所で熱中症リスクを事前に判断するために開発されたものである. 1975(S50)年には,ASCM(アメリカスポーツ医学会)がWBGTを用いた長距離走の指針を公表し,WBGTが28℃以上の場合は,10マイル以上の長距離走を禁止するとの指針を発表した.1982(S57)年,ISOが,国際基準としてWBGTを位置づけた. 1994(H5)年,日本体育協会が「熱中症予防の原則およびガイドライン」を発表した. 2006(H18)年,環境省が「熱中症予防情報」サイトを開設,全国の暑さ指数(WBGT)の情報を提供しはじめた. 2008(H20)年,日本気象学会が「日常生活における熱中症予防指針」を公表した.

2 WBGTの計測装置
WBGTの計測は,基礎データとして,黒球温度,湿球温度,乾球温度の3つを計測する. 黒球温度(GT Globe Temperature)は,黒色に塗装された薄い銅板の球の中心に温度計を入れて観測する.黒球表面は無反射塗料が塗られていて,直射日光にさらされた状態での球の中の平衡温度を観測し,弱風時の日なたにおける体感温度と良い相関がある.  湿球温度(NWB Natural Wet Bulb temperature)は,水で湿らせたガーゼを温度計の球部に巻いて観測する. 温度計表面の水分蒸発による冷却と平衡した時の温度で,空気が乾いたときほど,気温(乾球温度)との差が大きくなり,発汗が蒸発する時に感じる涼しさ度合いを表す.  乾球温度(NDB Natural Dry Bulb temperature)は通常の気温である.

3 WBGTの算出式
WBGTは,以下の式で算出され,単位は摂氏度(℃)である.
屋外: WBGT(℃)= 0.7NWB +0.2GT +0.1NDB
屋内: WBGT(℃)= 0.7NWB +0.3GT

4 WBGT計
2018(H30)年現在,携帯式のWBGT計は,1万円以下のものから数万円まで,比較的安価で購入できるようになってきた. 携帯式のWBGT系は,小径の黒球を装備して,前述の定義にある計測機との整合性を保っている.
写真左下:常設WBGT計(記録型),右上:携帯式WBGT計.鉛直に立てて日なたで使用する.
WBGT meter

5 計測方法
屋外であれば,晴天時,(南を向いて)黒球部分が直射日光をうけるよう,鉛直に立てて持ち,計測する. 雨天時(つまり日射がない場合)は,傘をさすとかテントの中ということもあり得るが,WBGT計が,選手の活動している環境と整合性がある状態で計測しなければ意味がない.

6 活用,事例
日本スポーツ協会の指針では,「WBGT28℃以上で厳重警戒,31℃以上で運動は原則中止」としている.
2018年7月16日,長良川での全日本中学選手権には約507名が参加(競漕記録から概算),2日目7時から準決勝が行われ,9時頃から気分が悪いなど29人が熱中症症状を訴え,うち10人が救急搬送された(点滴などで回復). 当日5:15のWBGTは26.1℃から,8:15には29.2℃(気温29.1℃,湿度75%),9:15には31.2℃(気温32.6℃,湿度58%)となった.選手の5.7%が不調を訴え,うち(全数の)2%が救急搬送された勘定になる.

7 まとめ
このことから(1事例だが,安全係数1.5を加味し),危機意識の持ち方(リスク評価)としては,「中学生はWBGT30℃以上で,約9%(12人に1人)が熱中症を発症し,そのうち4人が救急搬送レベルとなり,そのうち1人が重症化のリスクがある」という程度の危機意識を持つべきである.
また予防的回避には,WBGT28℃を超えれば明確に厳重警戒レベル(運動強度を落とす,活動環境を改善する,全員の体調を丁寧に把握)に行動をシフトすべきである.


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