エルゴでのパワー-エンデュランス関係とそのトレーニング強度設定への利用

by クート・ヤンセン

[Ozawa Rowing Top Page] [Seminar Library INDEX] edit:19981211 20231203


(社)日本ボート協会主催のコーチセミナー(98.12.5/戸田,98.12.6/瀬田)として開催されたクート・ヤンセン氏(デンマーク)の論文の和訳です.同セミナーの受講レポートは,別途掲載の予定です.

エルゴメータでのパワー-エンデュランスの関係とそのトレーニング強度設定への利用

クート・ヤンセン(Kurt Jensen)
デンマーク オーデンセ大学 体育スポーツ科学学部チームデンマークテストセンター

イントロダクション
北欧では冬季,水面の結氷,日照の短さ,悪天候のために乗艇が難しい.そこで代わりのトレーニングとして,クロスカントリースキー,ランニング,自転車,サーキットトレーニングなどが行われてきた.しかしデンマークではここ10年,ローイングエルゴメータが,乗艇できない時季のトレーニングとしてますます一般的になってきた.この論文は,エルゴメータで個人それぞれのトレーニング強度をどのように決めてきたかを,またエルゴメータおよび乗艇でトレーニングの一例を,紹介するものである.

トレーニング
競漕のためのトレーニングは,最大酸素摂取量(VO2max)の60~100%以上の強度で行われる.トレーニング強度は,エネルギー代謝システムに基づいて,期待する効果に応じて設定することができる(参考:(1))できる.代謝システムによる区分としてはつまり,無酸素(血中乳酸濃度で6 mmol/l以上), (有酸素)トランスポーテーション(4~6mmol/l),無酸素作業閾値(AT,4mmol/l),そして(有酸素)ユーティリゼーション1および2(2~4 および2mmol/l以下)である.乗艇トレーニングでは,強度は普通,レイト,艇速または心拍数などを測定してコントロールされる.トレーニングの強度を把握するために乳酸濃度も使われてきた(2).だけれども強度を表す究極の方法は,トレーニング中にひと漕ぎごとにオールのハンドルにかかる力と時間を計測するか,または発揮されたパワーと仕事を計算するといったことである.が現実には,このような方法はまだ一般に利用できる段階ではない.しかし,ローイングエルゴメータによるローイングでは,パワーを連続的に計測することができる.ローイングエルゴメータで,時間か距離を決めて"全力(all-out)"で漕ぎ,発揮された平均パワーをプロットすれば,いわゆるパワー-エンデュランス曲線が描け,これは,トレーニング強度を正確に決める道具として使える.ローイングエルゴメータで漕いでいる間,ワットで表示の作業負荷は直接利用できるし,またエルゴメータで設定した強度を"学習"し(訳注:記憶し),そしてそれを乗艇の時に(訳注:強度設定として)使うことも可能となる.

被験者および測定方法
地方のトレーニングセンターから9名のデンマークのシニアBの漕手(5名は重量級,4名は軽量級)が,研究に参加した(表1).冬が始まる11月最後の週に,ローイングエルゴメータで一連のパフォーマンステストを実施した(表2).フィールドテスト(訳注:エルゴでの練習)の後2週間をかけて,ラボテスト(訳注:実験室での測定)として,(3)で記載されている標準的な方法に従って,最大酸素摂取量(VO2max)の測定とW4とW6の算定を行った.

結果
被検グループの平均パワーは,1時間全力漕の284(236-319)ワットから,10秒間全力漕の741(551-948)ワットの範囲であった(表3,図1).臨界の(訳注:長時間持続可能となる)パワーは,実験のワークタイムと仕事(J)の関係で,直線的な減少勾配から278(232-312)ワットと計算された.最大以下の,血中乳酸濃度を4および6mmol/l(W4とW6)に上昇させる時のワークの強度は,303(250-350)ワットおよび330(267-379)ワットと算定された(図1).W4とW6を図1にあるが,これらに示すワーク強度は,それぞれ約44分と22分までのトレーニングに使うことができる.

適用
パワー-エンデュランス曲線を使って,A,B,C,D,Eの各トレーニングの強度を決めた(図3).各漕手はそれぞれのトレーニング強度を決めるために個別のパワーエンデュランス曲線を使った.ローイングのためのトレーニング強度は,レースペースでのパワーに対してA:110~180%,B:90~105%,C:75~85%,D:65~70%というように決められた.ここではレースペースでの2kmタイムトライアル(でのパワー)を100%とした.トレーニング強度のAからDに対応するレイトと心拍数は,レイトが36~40,30~36,26~30,22~26,心拍数が(最大心拍数-の値で)0,0~10,10~20,20~40であった.トレーニング中に漕手は,設定された強度レベルを自分の感覚で維持するように促された.パワー-エンデュランス曲線は,与えられたワークの強度をどれだけ長く持続できるかを示す.例えば,レベルCの負荷では最大20~60分まで持続できる.それで,レベルCでの典型的なトレーニングモデルとしては,できるだけ速い速度での12km漕か,あるいは10~20分のリカバリー(回復期間)を挟んでの6km2セットとかが適用できる.心拍数はインターバルを通じてわずかずつ上昇するが,(最大心拍数-)10~20拍であるべきだ.またレイトは(小艇で)26~28,(より大きな艇では)28~30である.レベルDは,最少でも1時間から,おそらく2時間位までの連続漕で,レイトを少しだけ変化させるようなメニューである.典型的なトレーニングモデルとしては,時間が30+20+10+10分で,レイトがそれぞれ22,24,22,26,心拍数は(最大-)20~40で,ワーク中にわずかずつ上昇するようなものである.さらに低い強度のものは,回復のためとか,特別な技術的な目的のため,あるいは数時間に及ぶような特別に長い持久漕のみに用いられる.一番高い強度のAとBは,各セット(bout)で充分高い強度を維持するようにインターバルトレーニングのセットで実行する.各セットでのワークタイムは,正しい強度を持続できるように比較的短く設定する.例えば,Bでは10分以下,Aでは2分以下というように.セット間の回復時間は,(8~10分の)長めのインターバルでは少なくともワーク時間の半分, また(10~30秒の)短めのインターバルでは,ワーク時間の5倍までとるようにする.典型的なトレーニングモデルの例とワークの負荷を,表4と表5に示す.さらに,シーズン中のレース前の一週間の典型的なトレーニングを,表6に示す.

要約
この研究の目的は,デンマークのエリート漕手の1グループについて,個別にトレーニング強度を設定できるよう,その漕手の能力を評価することであった.パワーが240,270,300,330,360ワット,レイトが22,24,26,28,30での5分間を通して,心拍数と血中乳酸濃度(BL)が決められた(訳注:わかった).血中乳酸濃度の4mmol/lおよび6mmol/lへの上昇に対応する心拍数と作業負荷(W4,W6)は,直線補間によって計算された.さらに,"全力;オールアウト"発揮の測定を,10秒,60秒,2km,6km,1時間と,いろいろな時間設定で実施した.これらすべての測定は,コンセプトⅡのC型エルゴメータを用いて1週間以内に実施した.各テストの結果から平均パワーと時間の関係をプロットし,漕手の個別の身体機能の特性を示すいわゆるパワー-エンデュランス曲線を描いた.この曲線に,W4とW6が描かれ,これが平均ワークタイム22分と44分を反映したものである.レースペースでの2kmトライアルを100%と考えることができる(図1).ローイングのためのトレーニング強度は,(レースペースを100%として)A:110~180%,B:90~105%,C:75~85%,D:65~70%というように定義された.レベルA~Dに対応するレイトと心拍数は,レイトが36~40,30~36,26~30,22~26,心拍数が(最大心拍数-)0,0~10,10~20,20~40である.トレーニング中,漕手は設定された強度レベルを自分の感覚で維持するよう促された.結論として,一連の簡単なパフォーマンステストをすることで,エルゴメータや乗艇でのトレーニング強度を決める有用なデータが得られるといえる.

参考文献
1. Jensen K, Nielsen TS, Smith M, 「イタリアナショナルチームの漕艇トレーニングプログラムの解析」 FISA Coach 1990; 1; 2; 1-5
2. Hartmann U, A Mader, W Hollmann.「一流漕手における持久トレーニング中の心拍数と乳酸,およびその練習期間との関係」FISA COACH 1990 1; 1; 1-4
3. Jensen K, 「漕艇のためのテスト手順」FISA COACH 1994; 5; 4; 1-6

図の説明
図1:"オールアウト"テストにおけるパワーとワークタイムの関係.10秒,60秒,2km,6km,1時間漕による.実験室の測定結果から推算されたW4とW6を含む.
図2:最大以下および最大負荷でのレイトと血中乳酸濃度.ラボテストによる.
図3:パワー-エンデュランス曲線から決めたワークレベル


原文は英語版のコラムにあります.


EOF